石川県白山市 車多酒造

天狗舞う森の蔵。

石川県白山市。霊峰白山から流れ出る伏流水と、米どころである加賀平野に実る良米。天狗舞は、そんな自然の恩恵を受けて醸されてきた地の酒です。
創業は文政六年(1823年)、初代蔵元車多太右衛門が、旨い酒をとの一心でこの地に酒蔵を構えました。蔵はうっそうとした森に囲まれており、木々の葉のすれあう音がまるで天狗の舞う音に聞こえたそうです。その謂れから、「天狗舞」の酒銘が生まれました。

「天狗舞の山廃」にかけた思い。

「一麹、二酒母(モト)、三造り」と言われる酒造り。山廃とはこの内の酒母を作る作業工程です。酵母を育てる「酒の母」の中では、乳酸の働きにより酵母菌以外の雑菌の繁殖が抑制されます。山廃造りでは、蔵内や空気中の天然乳酸を酒母内に取り込み、徹底した温度管理のもとでじっくりと育てます。人工的に乳酸を添加する方法と比べ、技術的にも難しく仕込期間も倍の日数がかかる大変な製造方法です。
車多酒造は「高品質で飲んで旨い酒を醸したい!」との思いから、山廃仕込にこの小さな蔵の命運を掛けました。山廃仕込こそがきめ細やかでふくらみのある飲んで旨い酒を醸せると信じ、代々蔵に伝わる山廃の文献を紐解き、また、様々の人の教えを受けながら情熱を持って酒を醸し続けました。今では長年の研鑚により山廃仕込に独自の手法を加味し「天狗舞の山廃」というべき手法によって、多くのお酒を醸すまでに至りました。

魂を宿し色づく酒。

良質な米と水を用い丁寧に醸し、じっくりと熟成させた天狗舞は、かすかに琥珀色を帯びています。この色を見て「古いのか?」「劣化しているのか?」と質問されることもあるそうですが、これは米や麹などに由来する酒本来の自然な色合い。
「多量の活性炭を使って濾過を行えば、酒の色は簡単にとれますが、色といっしょに香りや旨味までもとれてしまいます。香りと旨味をできるだけ削がずに、お客様に旨い酒を飲んでいただきたい。そのため活性炭は、熟成によって生じたわずかな苦みを少なくし、味を整えるためだけにごく微量しか使いません。酒のありのままの個性、すなわち米そのものの旨味を大切にしたいのです。天狗舞のほのかな琥珀色は、丁寧に丹念に醸したお酒だからこそ。酒の色には魂が宿っている、という言い方もできます。」
酒の色も旨味の指標の一つとして楽しんでみてはいかがでしょうか。


株式会社 車多酒造
石川県白山市坊丸町60−1

前の記事
福島県南会津 花泉酒造
産地ネットワークカテゴリー
蔵元のご紹介